きたけんブログ

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撤退の農村計画 (林直樹/学芸出版社)

林直樹
学芸出版社
2010年08月発売

日本が人口減少時代に突入し、過疎地では限界集落の増加が危惧されています。自然環境や地域文化、財政、コミュニティを考慮した上で、どのようにして過疎集落と向き合うかを本書では提案しています。この中で説いているのが過疎集落ごと都市部へ移転する「積極的な撤退」です。

高齢化に伴い僻地での生活が困難になった人が次々と都市へと移住することで、集落を維持できなくなり、いずれ消滅します。移住した人は、個々人での移住のため、高齢にもかかわらず、都市部での孤独な生活を強いられます。また里山は荒廃し、生態系の変質や土砂の流出へと繋がります。このような(積極的に対して)消極的な撤退は、誰も望んでいない結末です。

そこで提案されたのが過疎集落ごと都市部へ移転する積極的撤退です。集落というコミュニティを維持したままの移転ですので、高齢者の孤立を防げます。一方で使用されなくなった里山や休耕地には、牛を放牧する、自然林に戻すなどの対応を取ります。集落まとめての移転ですので、その集落に必要だった道路や電気、水道といったインフラを撤去することが出来、長期的には財政が圧縮されます。

全く論理的な発言ではありませんが、わたしとしては、”積極的”というより”軟着陸”な印象です。合理的で現実路線な提言なのは重々理解できるのですが、全面的な賛成はしかねます。だからといって否定的なわけではありませんし、とても肯定的に感じたことも事実です。ただ”やむなし”な対応に見える、と感じただけです。

システム的にはすごく理にかなっていると感じましたが、”人”が関わることですから、最終的には合意形成が障壁になるんでしょうね。集合住宅の建て替えですらなかなか意見をまとめられないのに、そうそう集団移転が叶うのかなぁ、と懐疑的になります。背水の陣になって、選択肢が限られてくると、自ずと実現するのでしょうかね。

といっても遅かれ早かれ直面する問題であるのは、事実です。事なかれ的に放置していても、一つ一つの損益が小さい(一方で件数は多い)ので、あまり焦点が当てられないのかもしれません。しかしこのような提案の結果、別の課題、例えば医療費やインフラの更新、里山の荒廃などが複合的に解決できるのであれば、検討する余地も十分にあるのではないでしょうか。

何を書いているのかよく分からなくなってきましたが、東北が地震の影響でああなっている以上、短期的にも議論していかなければならない課題になったと思います。