伊藤計劃「虐殺器官」

サラエボが核爆弾テロによって消失した近未来が舞台です。主人公は暗殺部隊である米国情報軍大尉・クラヴィス・シェパード。彼の任務は、世界各地の虐殺現場で暗躍する米国人・ジョン・ポールを抹殺することです。しかし、ジョンはいつも巧妙に逃れ、クラヴィスたちの追跡を翻弄します。長編国際軍事サスペンスであり、読者を息もつかせぬ展開へと誘います。

貧困、環境問題、国際情勢、民間軍事会社、核問題など、現代社会にも通じる深刻な社会問題を丁寧に扱っており、重厚なテーマが読み手を深く引き込みます。綿密に書かれた技術描写も、物語のリアリティを高め、読者をひきつけます。核爆発によって失われたサラエボや印パによる核戦争といった設定は、現実とは異なる世界観であることを印象付けます。

特に印象的だったのは、登場するテクノロジーの描写です。全世界を電子のネットワークでつないだオルタナティブと呼ばれる端末は、まるで攻殻機動隊の電脳空間のように、情報が奔流する世界を彷彿とさせます。また、パラシュートなどで降下する高高度降下で用いられるポッドを制御するのは、クジラやイルカから作られた人工筋肉という、想像を超える技術が使われています。

本書解説にもあるように、ジョンが虐殺を扇動した理由付けがもう少し丁寧に描かれていれば、より一層深みが増したかもしれません。彼はただの狂人なのか、あるいは歪んだ愛国心の塊だったのか。

少々グロテスクな表現が多いものの、それ以上に味わい深い作品でした。伊藤計劃氏が2009年に亡くなられ、他作品にあまり触れられないのが残念でなりません。

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